バントゥ諸語を対象とした統語研究における主要なトピックに数えられる適用形動詞(applicative verb)とは,基本動詞(語基)の有する目的語項(BO, base object)とは異なる意味役割を有する項(AO, applicative object)を目的語として導入する派生形式である。先行研究では,1) BO,AO双方に対して「第一目的語(primary object)」としての統語論的地位を付与する目的語対称型言語(SL)と,2) AOのみにその地位を与える目的語非対称型言語(AL)の2類型に大別されてきた。本発表では,発表者が記述対象としている言語を中心に,バントゥ諸語における多様な適用形構造を類型的に提示し,実際には「典型的な」SL/ALという分類に必ずしも適合しない言語が少なくないことを指摘する。また,そういった多様性を生み出す背景的要因/バイアスについて検討する。