トートロジーにおける「言われていること」と「含意されていること」の反転

酒井 智宏

トートロジー「XはXだ」は「言われていること」のレベルで文脈とは独立に常に恒真命題「すべてのXはXだ」を表し,「含意されていること」のレベルで例えば「すべてのXは同質的だ」といった有意味な含意を伝え,この含意が恒真命題に基づいていることによりトートロジーの反論を封じる機能が生じると説明されてきた。本発表では次のことを論証する。(i)「トートロジーが文脈とは独立に表す命題」なるものは存在しない。(ii)トートロジーの言語的意味は命題ではなく,それが文脈による補強を受けて「言われていること」が得られる。(iii)その意味での「言われていること」の一つが「すべてのXは同質的だ」に相当する命題であり,これと文脈情報の相互作用により「すべてのXはXだ」という「含意されていること」が得られる。(iv)以上により「文が表す字義通りの命題→文脈→言外の意味」という解釈図式は決定的に崩壊する。