英語においてどの名詞句に左方転移が適用され易いかを,文法関係に基づく名詞句の階層の形で,記述しようと試みた。
久野 (1976) が主張する関係節に関する主題的制約は関係節形成に与る名詞句が主題性を有する必要がある事を述べたものである。この事を考慮すると,Keenan and Comrie (1977) によって提案された名詞句の優位性の階層は名詞句の主題性に関する階層として解釈する事が可能であろう。この事を更に推し進めて名詞句の優位性の階層が左方転移の容認可能性の階層としてもまた妥当する可能性が考えられ得る。本研究では,左方転移の階層が記述され,この仮説が妥当であるか否かが検証される。
文中の名詞句のうちの一つに左方転移をかけた文を用意し,informants に各文の文法性の判断を依頼した。彼らが判断した容認可能性の度合いを点数化し,その平均値を計算した。点数が高い程,容認可能性が高い事を意味する。以上の方式で,どの文法関係を担う要素が外置された場合に得点が高くなるかを調査・検討し,次の容認可能性の階層を得た。
左方転移の階層
主語>属格名詞句>斜格目的語.
比較名詞句・間接目的語>直接目的語.
上にあげられた階層は,名詞句の優位性の階層とは異なったものである。こうして,冒頭に述べられた仮説は否定される。左方転移のための階層として上記の様な階層を新たに考えるべきであるという結論に至る。
上記の階層の,上位の位置では,主題性を担いやすく,下位の位置では,主題性が低いものと解釈出来る。本研究の成果は,統話談と談話の橋渡しめ役割を果たそう。