派生や複合語形成などのいわゆる「語形成過程」においては一般に,右側にくる要素が主要部 (head) であり,この要素が語全体の品詞や意味特性などを決定するものとされてきた。この原理は Willams (1981) により「右側主要部規則」 (Righthand Head Rule: RHR) として形式化され,日英語を含むいろいろな言語の語形成過程を説明できるものとされてきている。しかしながら従来の研究においては,この 'head' という概念がもっぱら意味論・統語論の観点から捉えられており,音韻的な観点からの考察は筆者の知る限り皆無である。本発表においては英語と日本語のBLEND(混成)過程(e. g. breakfast / lunch → brunch,ダスト/ゾーキン→ダスキン)の分析結果をもとに,音韻的観点から 'head' という概念の妥当性を論じる。
具体的には,A(B)/(X)Y → AYという混成パタンにおいて,日本語においても英語においても(1)の原理が働いている。
(1) 混成語AYの音韻的長さは右側要素XYの長さと一致する
「音韻的長さ」とは日本語の場合モーラ数,英語の場合は音節数で定義されるものであるが,このように日本語と英語の両言語において,混成語の長さが右側要素の長さによって決定されるという事実は,両言語において,右側要素が左側要素より混成語の音韻構造の決定により強く関与しているということを意味しており,RHR に対する音韻的証拠と見ることができる。英語においてはさらに,単音節語同士の混成において二語が音節内で分裂・結合する場合,音節の中心を成している母音部分が右側要素から出てくるという事実 (e. g. sm(oke) / (f)og → smog) も観察され,この事実も RHR の妥当性を示唆しているものと言える。