音韻理論は,音韻部門への基本的なアプローチの仕方の違いに応じて,構造構築アプローチとひな形照合アプローチとに大別して考えることができるが,両アプローチに見られる特徴のうち,主なものは,それぞれ,(1),(2)のようなかたちで抽出することができる。
(1) i. 適格な音韻表示という概念は,音韻構造構築規則という理論構成物に基づいて,間接的に定義される。
ii. 適格な音韻派生という概念を定義する際に伴う不確定要素 (indeterminacy) (即ち,構造構築規則の適用方式に関する不確定要素)を除去するための道具立てとして,次のような理論構成物を想定する。
a. 構造構築規則間に外在的順序付けを課す。
b. 音韻階層構造中の所与のレベルPの構造 XP を構築して行く操作の結果,当該レベルの記号列に含まれる XP 成分の個数が最少となることを要請する(ないしは,最少となるような派生を無標として指定する)主旨の原理を設定する。
(2) i. 適格な音韻表示という概念は,音韻構造上のひな形 (phonological template) という理論構成物によって直接定義される。
ii. 適格な音韻派生という概念を定義する際に伴う不確定要素(即ち,ひな形との照合の仕方に間する不確定要素)を除去するための道具立てとして,次のような理論構成物を想定する。
a. ひな形照合操作の方向に関するパラメターを設定する。
b. 音韻階層構造中の所与のレベルPの構造 XP)を指定して行く操作は,下位レベル P-1 の記号列に含まれる XP-1 成分の個数が,XP のひな形に抵触しない限りにおいて,最多となることを要請する(ないしは,最多となるような派生を無標として指定する)主旨の原理を設定する。
本発表では,まず,前半で,(1)対(2)の問題を吟味検討し,結論として(2)を支持した上で,後半では,(2)を支持するモデルのうち Ito (1986) の Prosodic Phonology と我々のProsodicization Theory とを比較勘案し,後者を支持する議論を提示した。