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間接受身の意味とその発達

柴谷 方良
中川 正之
木村 英樹
小川 暁夫

本発表は,日本語の受身を中心に,特に間接受身の意味とその発達について,中国語,ヴェトナム語などと比較しながら検討する。また,間接受身の意味とその成立に関係する意味的条件が受身構文以外においても関与することを示すために,ドイツ語ならびにスペイン語における与格構文の意味と成立条件についても言及する。
まず,日本語の受身に対してたてられる,「直接受身」・「間接受身」という区分は明確に区別できるものでなく,連続体をなしているということを示し,いわゆる「迷惑の受身」という意味的側面はこの連続体にそって起る現象であることを指摘する。また,間接受身の発達もこの連続体にそって,原型的直接受身をモデルに発達するという仮説を提示する。
間接受身に典型的にあらわれる「迷惑」という意味合いはどこから来るのかという問題についてはかつて議論されたことがなかった。本発表は,受身は基本的に被害の意味を待ち,被害の意味が語彙的に出ない場合に,迷惑の意味が語用論的に補われるという仮説を考える。語彙的に表される被害の意味とは,「殺す」,「壊す」,「殴る」,「叱る」など典型的な他動詞がそれらの対象に及ぼす悪影響のことで,原型的な受身はこのような動詞を中心に起り,受身文では対象が話者の共感 (empathy) を受けやすい主語の位置に立つことから,被害の意味が原型的受身の構文的意味として生じると考える。間接受身においては,語彙的な被害の意味合いが薄く,また受身文の主語と,表されている事象との意味的関係が希薄な状況があり,そのような表現が受身文として成立するためには主語と事象との関係を表すために何等かの意味的増幅が要求され,被害という構文的意味から派生的に迷惑という意味が補われるものと考える。
受身文の成立要因として,その原型的状況においては,上に述べた被害ということと,結果の表出という二つのものが働いていると考えられる。例えば,中国語などではこれら二つの要因のどちらかが満たされないと,受身文が作りにくい。これら二つの要因は,「影響の度合」 (degree of affeetedness) という概念にまとめられると考えられるが,直接の受身も間接の受身の成立も「影響の度合」というパラメータに支配されていると考える。特に間接の受身の発達は,影響の度合に添って,度合の強いものから弱いものへと見られ,中国語のように度合の強い状況においてのみ可能であるという,間接受身が未発達の言語から,影響の度合がかなり弱い状況においても可能な,間接受身が日本語のように非常に発達した言語もある。直接・間接というものが連続体を成していると先に触れたが,この連続体はここで述べている影響の度合のパラメータに添ったものであると考えられる。
上に述べた影響の度合というものが,他の構文にも関与するということを,ドイツ語とスペイン語の与格構文の生起について示し,これらの構文においても事象と間接的に関係する与格名詞句を認可するための意味的増幅として,迷惑(あるいは利益)の意味合いが認められることを指摘する。

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