ワルング語の疑問詞の位置

角田 太作

従来の諸研究によると,世界の諸言語で疑問詞(英語では WH の語)の起こる位置には,以下の型がある。(1)文頭に起こる型。(2)文末に起こる型。(3)平叙文の場合と同じ位置に起こる型。(4)特別の位置に(例えば,動詞の直前に)起こる型。
豪州,クイーンズランド州北部の Warrungu ワルング語では,疑問詞の起こる位置は上記のどの型にも属さない。即ち,ワルングは,従来,報告されていない,新しい型の言語である。この言語では,疑問詞は,文頭に最も起こりやすく,後ろに行くほど,起こりにくくなる。(テキストの一部分での頻度を見ると,文頭に起こる例が167(81%),二番目に起こる例が30(15%),三番目に起こる例が7(3%),四番目に起こる例が1(0.5%)。五番目に起こる例は無い。)
このことは下記のことを示唆する。(1)上記の四つの型のどれかに属するとされている言語の中にも,実は,疑問詞の位置は,厳密に決っているのではなく,ワルング語のように,(好まれる位置があるにせよ)ある傾向を示すに過ぎない言語も存在するであろう。(2)その傾向にも,例えば,文頭に出やすく,後に行くほど出にくい,などの,ある種の規則性があるかも知れない。(3)言語類型論の今後の研究は,単にいくつかの例文を見るだけでなく,テキストを検討するなどの,綿密な方法が重要である。

参考文献