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膠着的言語に於ける文単位の拡大

池田 哲郎

ハンガリー語初期文献『サバーチの戦い a Szabács Viadala』(15世紀末. 150行の韻文で句続点なし)を検討した。文単位の認定は難しく,二行一単位とも,やや大きい単位把握が可能とも,更に全体で一つとも言える。句読点がない以上,文単位認定には接続詞のあり方や前方照応的な代名詞や語彙のあり方が鍵となる。ただ,テキストに幾つ文が存在しているかを考えることは難しく,これは以下の理由に拠る。
ハンガリー語の文は膠着性・母音調和を持つ要素間の文法的一致・呼応を軸に成立し,述語は単独でも文となる。本来は主語・目的語や態表示までをも含む形態素配列を持ち,述語が末尾に来る語の配列とも呼応していたが,次第に語の配列に比重が移り,バランスが崩れ,結果として文単位の拡大が困難となった。それ故,文の統一性確保や複雑な思考表現のために別の文法粋が必要となり,指示要素が呼応関係を明示し接続詞(従属文は疑問乃至は感嘆文起源)や先行詞が成立した。ただ,一度生じたパターンは剰余的な接続詞の例をも生じさせ,先行詞の使用頻度も高い(抽象度が低い)。 以上の様な現象は初期文献期末にはある程度見える。頻度の低い連体・連用形構文は,単文の連続で代用できたためか発達していなかったか,発達はしていても次第に新たな文法粋にとって替わられたかである。その芽は10世紀以前のデータのない時期に既にあったのではないか。
トルコでは,連体・連用形構文の他,指示要素呼応や kim「誰?」・ki (hogy と同様意味機能は多用。借用で,逆に感嘆詞的な例を派生)や疑問助詞介在の接続詞なしの単文接続(接続法的)に注意したい。外的な影響は文単位の自然な拡大を阻止したが,ハンガリー的な傾向も見える。ただ,語順は突厥以来安定し指示要素の役割は低い。

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