動詞‘BREAK’と概念体系 (Conceptual Systems)
―分類辞を持つ言語と持たない言語―

藤井 洋子

Lakoff (1987: 91) は,我々の概念範疇 (conceptual categories) が言語の文法に表されることはよくあることであり,言語が一般的な認知の一部である以上,文法によって mark されている概念範疇は認知の範疇 (cognitive categories) の一般的な性質を理解するためにも重要なものであると説明している。特に分類辞を持つ言語における分類辞 (classifier) は,我々の概念範疇を非常に良く反映しているものである,と指摘している。本研究では,英語の動詞 'break' に当たる日本語の動詞,「割る」「折る」「破る」「壊す」「崩す」の五つの動詞とそれらと共起する物の関係,およびそれらの物を分類する分類辞の関係を探ってみた。さらに,日本語以外の分類辞を持つ言語として,中国語,インドネシア語,韓国語を,分類辞を持たない言語として,英語,ポルトガル語,ヒンディー語,チベット語,ペルシャ語を選び,それぞれの言語における動詞‘BREAK’と共起する名詞を調べ,分類辞を持つ言語と持たない言語における動詞‘BREAK’と,それと共起する物に対する概念範疇を比較し,その違いを明らかにしようとした。
その結果,日本語において上記の五つの動詞と密接な関係を持つ物を分類する分類辞の種類と動詞‘BREAK’の使用は,非常に密接な関係かおることがわかった。 さらに,日本語のように,分類辞を持つ言語では,動詞‘BREAK’は,対象となる物によっていくつかの動詞が適用されるのに対し,分類辞を持たない言語は,動詞が,対象となる物によって異なるということはないことがわかった。このことにより,「物」に対する我々の概念範疇体系は,動詞‘BREAK’の使用にも反映されているということが言える。