日本語/English
日本言語学会について
入会・各種手続き等
学会誌『言語研究』
研究大会について
学会の諸活動
その他関連情報

満州語における母音 -i- の弱化と軟口蓋音口蓋垂音及び唇音の変化について

山崎 雅人

○ si 西。 siseku 篩籮篩子。 asihaki 少嫩。 hasi 茄子。
此 si 字在聯字中間下邊倶念誌。在聯字首念誌西倶可。單用仍念西
これは『満漢字清文啓蒙』(1730) の注記だが,変化するのは -s- ではなく -i- である。単独の si [ʃi] は「西」の字音に近いとされるが,語中語末では -i- が弱化して [ʃ] だけの聴覚的印象を与え「詩」の字音 [ʂɩ] も子音の捲舌性により母音は曖昧なので,両者を近い音価としたと考える。また,語頭ではアクセントにより弱化が生じにくく,>[ʃi] で発音される。
○ -ga-, -ga 字倶念哈 (ha), -go-, -go 字倶念豁 (huo), -gū- 字念呼 (hu)
この注記は,-i, -e, -u に比べ広い緩み母音の -a, -o, -ū に先行する -g- が,語中語末音節では完全な閉鎖ではなく狭窄の段階で発音されて摩擦音になることを述べている。これも同様に,語頭音節ではアクセントにより明瞭な発音になるため起こらず,調音的緊張が低下する語中語末音節で生じる。現代語では同じことが -i, -e, -u に先行する -g- にも起きる。これは軟口蓋音口蓋垂音 -g- の弱化である。逆に文語の h が現代語で [k] になる現象がある。
○ 文. hibsu [kifsuˑ] 《蜂蜜》  文. huwesi [kuʃɩˑ] 《小刀》
語頭音節の狭い張り母音 -i, -e, -u とアクセントが調音的緊張を高め狭窄を強めて閉鎖を形成し,摩擦音が閉鎖音になるのであるが,これが語中語末音節で起こることもある。
○ 文. tahalambi [taqələm] 《蹄鉄を打つ》  文. bosho[bɔʂqw, bɔsqw] 《腎臓》
これは調音的緊張が低下する語中語末音節に広い母音 -a, -o, -ū が後続して一層弱化するので異化が生じ,調音的緊張の保持のために摩擦音を閉鎖音にするからである。他方,前の例はアクセントにより摩擦音が狭い母音と同化する閉鎖音化であり,これらは軟口蓋音口萱垂音 h の強化である。また,-b- が語中語末音節で弱化して [f]/[v] になる現象もある。

プリンタ用画面

このページの先頭へ