DP 内部の空所化と pro

本田 盛

次の英語と日本語の例を考えてみよう。
(1) John's father hates Bill's.
(2) メアリーはジョンの手紙を読んだが,ビルのをまだ読んでいない。
本発表では,上記(1)と(2)に見られる言語現象が,DP 仮説と非最大範疇に生起する pro の存在を認めることにより一般化が可能であることを提案する。
DP 内部に pro が生起する条件として,(5)を提案する。
(3) Lexical pro must be adjacent to the strong form.
(3)の条件によって次の例文に見られる文法性の対照が説明される。
(4) a. I like John's blue jacket but don't like [Bill's pro].
b. *I like John's blue jacket but don't like [Bill's red pro].
(5) a. ジョンは赤い車を買ったが,ビルは[黄色いの pro を]買った。
b. *ジョンは赤い車を買ったが,ビルは[黄色い pro を]買った。
(4a)や(5a)のように strong form に隣接しているところでは,pro が生起するが,(4b)や(5b)のように隣接要素が strong form でないところでは pro が容認されない。また,同様の現象が英語,日本語以外にドイツ語やオランダ語にも見られ,いずれも DP 内部の pro という同じ構造的特徴を持ち,(3)の成立条件が適用することを示す。