日本語における母音連続の長母音化について
―その要因と過程―

高山 知明

日本語における母音連続 (hiatus) の長母音化のうち,/Vu/ 形の長母音化を対象として,この変化がどのように進行したかについて考え,その要因の一部を明らかにする。対象とするのは,次のような母音連続の長母音化である。
/iu/ > /juː/: 「言う」/eu/ > /joː/: 「今日」
/au/ > /ɔː/ > /oː/: 「扇」/ou/ > /oː/: 「昨日」
これらの母音連続形と変化後の長母音形との関係は次のようにまとめることができる。
(1) A. 先行母音 /V-/ と後続母音 /-u/ との広狭の関係: /V-/ が /-u/ と広狭について同じならば /uː/, /V-/ が /-u/ より広ければ /oː/ となる。
B. 先行母音 /V-/ の口蓋的特徴の有無: /V-/ が口蓋的ならば /jVː/, /V-/ が非口蓋的ならば /V:/ となる。
また,4つの長母音化すべてについて変化後のは音が /u/ か /o/ になることから,これらの長母音化全体は「唇音性を持った長母音への変化」として特徴づけられる。そこで,2個の母音が同化して長母音になるにあたって唇音性が関与したと考えられる。この唇音性の関与は,長母音化の前に起こった唇子音の変化: 母音間 /Φ/ > /w/ にもとめられる。すなわち,/VΦu/ が /Vu/ に変化する際,[Φ] が先行母音に与えていた母音の質を flat にする傾向(唇音化の傾向)が,母音連続 /Vu/ になっても残され,その傾向が2個の母音を同化ヘと導き,長母音化したと考えられる。こうした同化を許した条件として,この段階の日本語では短母音に対する長母音の系列が整いつつあり,長母音化の変化の方向先が体系内にあらかじめ確保されていた,ということが指摘できる。