小論では,(1a, b) の NPi like NPj の NPj に見られるような代名詞の単純形と再帰形の用法を語用論的観点から明らかにしょうとした。
(1) a. For someone like me, this is a big surprise.
b. For someone like myself, this is a big surprise. ―以上,
Quirk et al., 1986, p. 360.
まず,NPj での再帰形の出現については,Ross (1970) 流の統語的な遂行分析による説明では不備であり,Fraser (1974) 流の談話の観点からの分析のほうが適していることを指摘した。次に,単純形と再帰形の両方が出現可能な例は,「場所」の前置詞の場合にも見られるが,両者の間には Spangler (1970), Kuno (1987) によれば,意味的・語用論的相違が存在することが指摘されていると述べた。そこで,NPj でも両者が出現する場合,なんらかの相違が存在することが推測される旨を指摘した。そして,Cantrall (1974),三浦 (1977) などの考え方を具体例に適用した場合,それらの考え方は ad hoc なものであり,一般化がつかめていないとした。そこで,小論ではかわりに (2a, b) のような仮説を提示した。
(2) a. NPi like NPj において,Addresser が対象となる NPj との間に,いわば語用論的特性として [-distance] を認める場合,NPj には再帰形を用いるのが適切である。
b. NPi like NPj において,Addresser が対象となる NPj との間に,いわば語用論的特性として [+distance] を認める場合,NPj には単純形を用いるのが適切である。
(2a, b) を実例に適用して検証すると,「対象との距離の有無」という考え方が,Cantran (1974) らにも相通じることがわかったのである。