疑問文の挿入節について

柏本 吉章

挿入節機能を持つ一連の心態表現動詞の中で,wonder は,その出現環境など,他の動詞とは大きく異なる性格を示す。まず,補文には,if・whether 節,wh 節をとり,また,文末で挿入節として用いられる場合には,主節は,完全な疑問文となる。
(1) I wonder if he will be able to come.
(2) Whose jacket is this, I wonder?
ここで,I wonder という表現は,話し手の疑念の記述的描写ではなく,発話そのものが話し手の疑問表出である。その機能は,think,believe 等,他の心態表現動詞の挿入節用法と共通であり,一種のモダリティ表現である。ただし,wonder の場合,そのモダリティの対象が,疑問文である。
挿入節的 wonder を含む疑問文は,通常の疑問文による,いわば直接的な質問行為に対して,その質問の力を控えた表現になっている。無標の疑問文が,相手の応答を求めるものであるのに対して,I wonder が挿入されることによって,必ずしも応答を要求しないという「手加減」が加えられる。それは,平叙文におけるモダリティの陳述緩和の働きに対応するものである。 think 類動詞の挿入節用法による控えた主張 (hedged assertion) に対して,控えた質問 (hedged question) であると言える。
このような挿入節の観察から,陳述文と疑問文は,必ずしも質的差で二分されるものではなく,様々な挿入節表現を介して一つの線上につながれうるものであると考えられる。そして,本論では,無標の陳述文と無標の疑問文を両極とし,その両側から陳述や質問の発話行為を修正・緩和するモダリティがあることを論じた。