本発表では,(1) にみられるような接続副詞 rather の特徴について考察した。
(1) The child does not consider the simple linear rule R.... Rather, the child knows... that the linear rule R is not a candidate.... (Chomsky 1988: 45)
収集したデータに基づき,rather について (2) のような特徴があることを指摘した。
(2) [文1]. Rather, [文2]. という文脈において,文1 には何らかの否定要素が含まれる。
さらに,文2と rather によって対比されるのは,文1の否定の及んでいる範囲内にある命題であることを示した。
また,否定表現の中で (3) のような擬似否定表現 (be surprised / ashamed / stupid / absurd, refuse, deny等) をもつ文が接続副詞 rather で始まる文と共起可能であることを示した。
(3) I doubt very much that it makes much sense to speak of a person as.... Rather, a language grows in the mind/brain.
そして,any, ever 等の否定対極表現の分有と同様,be sure/smart, admit 等の述語をとる文の後では rather で文を始められないことを示し,修辞疑問文との関連にもふれながら,潜在的否定要素が接続副詞 rather の用法に深く関係していることを論じた。
最後に,なぜ接続副詞 rather は先行文中に否定要素をもつのか,という問題を考察した。 rather が歴史的に備えることになったと考えられる比較級としての語彙特性― (i) 2項述語であること,(ii) 「~より~だ」という『選択』の意味をもつこと― から rather の許容条件を明らかにし,(2) の特徴はその条件を満たす典型的な場合であることを論じた。ただし,それはその条件を満たす場合の一例であり,否定要素を含まなくてもその一般的条件をみたす例が存在することも示した。