「わきまえ方式」による敬語行動の国際比較
―日本,韓国,タイ,中国,アメリカ,スウェーデンの場合―
申 恵璟
川崎 品子
荻野 綱男
Åke Daun
Beverly Hill
(研究協力者: シン・サワディ,張 麟声)
「わきまえ方式」の敬語行動のうち,相手の人物カテゴリーに対するあらたまりの態度で示すわき,まえに限定,「ペンを借りるとき,どのような表現を使うか」についてアンケート調査を行い,得られた多数の回答データを統計処理し,数量を手がかりに比較をおこなった。
わきまえ方式の敬語行動は,日本>韓国>タイ>中国>アメリカ>スウェーデンの順序でその程度が強いことが明らかになった(相関係数の大きさで証明)。その理由として,四つの仮定をたて,それぞれについて数量で比較検討した。
仮定1 回答者が一つの相手の人物カテゴリーに対し使うと答えた表現の数(併答数)と相関係数は相関する。
仮定2 回答者一人ひとりの回答の種類の数(段階数)と相関係数は相関する。
仮定3 表現及び相手の人物に対する丁寧度の回答にばらつきが少なければ(標準偏差が小さければ)相関係数は大きくなる。
仮定4 狭義の敬語のある言語では相関係数は大きい。
結果は,仮定1と4が妥当,2と3は妥当でないことが明らかになった。
統計数字を総合的に判断すると,
(1) 日本,韓国,タイは段階数が小さく使い分けが安定している一狭義の敬語体系の存在のため
(2) 中国は段階数と標準偏差とが大きく,併答数が小さいため不安定な表現使用をしているらしい
(3) アメリカ,スウェーデンは併答数と段階数が大きいのに比べ,標準偏差がそれほど大きくないため「わきまえ方式」以外のルールが使われていると推測される。
なお,韓国の敬語行動に焦点を当て,使い分けの図を分析した結果,表現も人物も三つのグループに分けられ,最も改まった態度で接する相手には,敬語の接辞 shi と mnikka あるいは yo を,少々改まった態度で接する相手には yo を,最も気楽な態度で接する相手には非敬語形がつかわれていることを明らかにした。