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ヒッタイト語の中動態語尾 -ta (ti) -u̯ašta (ti)

吉田 和彦

ヒッタイト語の現在中動態語尾のうち,二人称単数形と一人称複数形に任意に付与される -ti は,その生起が予測不可能と伝統的に考えられている。しかし,近年めざましい発展を遂げているヒッタイト文献学の成果を踏まえるならば,400年に及ぶヒッタイト内部の歴史において,-ti が独自の変化を遂げたことが分かる。
古期ヒッタイト及び中期ヒッタイトのオリジナルのテキストを包括的に調べると,-ti を持つ形式は二人称単数にも一人称複数にも全く記録されていない。ところが,後期ヒッタイトの代表的な歴史文書では,二人称単数の中動態現在形には,すべて -ti (または -ri)が付与されている。また,一人称複数形でも,-ti が付与されている形式の方が多い。
以上の分析から,-ti が付与された 2 sg. -tati と 1 pl. -u̯ašta (ti) という語尾は,古期及び中期ヒッタイトに遡らず,後期ヒッタイトの時期に新しく成立した形式であることが分かる。
次に,二人称単数形と一人称枚数形に付与されるようになった -ti の起源について考えたい。古期ヒッタイトにおいて中動態過去語尾を特微づける -ti が,後期ヒッタイト語では末尾の i を失い,-t となったことはよく知られている。従って,過去を示す -ti と現在を示す -ti とは,決して同時期に存在しなかった。一方,中動態現在の二人称単数と ta- クラスの三人称単数は,古期及び中期ヒッタイトにおいて -ta (ri) という同一の語尾を取っていた。この両者を形式的に弁別するために,本来過去を表わすのに用いられた -ti が,i という現在に特有の要素を持つことから(cf. 能動態語尾 -mi, -ši, -zi; -hi, -ti, -i),後期ヒッタイトにおいて現在二人称単数形にまず導入され,次に一人称複数形に広がったと推定できる。こうして成立した -tati-u̯ašta (ti) は,その機能的位置が形式のうえで明瞭にマークされている。

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