モンゴル語の従属節の主語にあらわれる対格形について

水野 正規

モンゴル語の従属節の主語には,対格形(単文レベルでは「特定」された目的語にあらわれるもの)があらわれることがある。
本発表では,まず,(1) 従属節と主節の述語を共に自動詞にした文の存在 (2) 従属節の外に主語と考えられる対格形を取り出せないこと,から目的語とは違う機能を持ったものに対格形があらわれていることを示す。
次に,従属節の主語に対格形があらわれる環境として,ⓐ従属節の後に主節があらわれる順行型のタイプⓑ主節の中に従属節が埋め込まれた埋め込み型のタイプⓒ一方の主語が省略された省略型,の三タイプがあり,いずれも主節の主語と従属節の主語が違うことを指摘した。そして従属節であることを示す義務的マーカー(「接続表現」)の種類によって対格形のあらわれ方が違うことも述べた。続いて,従属節の主語に対格形があらわれる理由を,(I) 従属節と主節の主語が共通の場合には主語に対格形があらわれないこと (II) 省略型タイプにおける解釈 (III) 副詞の解釈 (IV) 埋め込み型における対格形主語の文法性の差,から,主節との主語の違いを示しつつ一番近い述語表現との対応を示すため,であるとした。
ただし,従属節の主語が生物や非生物の場合には,上記の環境に当てはまっても,対格形があらわれないことを示し,この点については,Silverstein M. (1976) による名詞句階層による対格形の出現パターンに一致していることも述べた。
最後に,日本語の従属節における「が」との類似点について触れ,従属節全体が主節の主語となった場合には違いが出ることも指摘した。