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フィンランド語における主語・目的語について

佐久間 淳一

まず,フィンランド語の主語・目的語を,それぞれ特徴の束として定義する。それらの特徴は,典型的な主語・目的語を規定する。そして,こうした定義に照らすならば,存在文・所有文の文頭名詞・文末名詞は,少なくとも典型的主語ではあり得ない。
ところで,フィンランド語では,通常と異なる主題が選択されると,倒置文が生じる。例えば,他動詞構文において,目的語が主題に選択されると,主題であった主語は主題でなくなり,動詞の後に後置される。このような場合,後置された主語は,定義に規定された特徴の一部を失っているが,正置文との関連から,依然として主語であると認められよう。しかし,同じことは,一見自動詞構文を倒置したように見える存在文の場合には当てはまらない。なぜなら,存在文は,自動詞構文が倒置したものではないのであり,従って,存在文・所有文の文末名詞を主語と考えることもできないのである。
一方,存在文・所有文の文頭名詞は,典型的主語と同じ統語的意味的過程に関与する。しかし,このことも,存在文・所有文の文頭名詞が主語であることは示さない。なぜなら,非人称受動文で動詞の前に前置された目的語もまた,そうした過程に関与する。そして,主語が自然な語順における主題(一次的主題)であること,存在文・所有文の文頭名詞剔同じく一次的主題であること,非人称受動文で動詞の前に前置された目的語は,二次的主題であることを考えれば,そうした過程に関与するのは,一次的二次的を問わず,主題であることがわかる。従って,存在文・所有文の文頭名詞が,主語と同じ統語的意味的過程に関与するという事実は,存在文・所有文の文頭名詞が主語であることを示すのではなく,主題であることを示す。存在文・所有文の文頭名詞を「斜格主語」と呼ぶことは,主題との関係を曖昧にする可能性があり,慎重でなければならない。

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