我々は,日本と韓国の大学生を対象に敬語用法の比較対照を目的とするアンケート調査を行なった。 日本側は東京近辺の大学生男子72人,女子119人の合計191人,韓国側はソウル近辺の大学生男子118人,女子170人の合計291人を調査した。調査では,大学生が日常接する人物をリストアップし,それぞれの人に対し,「これからあなたはどこへ行くか」とたずねるときの「行くか」と,「道を教えてくれ⊥というときの「教えてくれ」をどのようにいうかをたずねた。前者は空欄に自由に表現を記入してもらう自由記入式,後者は,あらかじめ予備調査で得た語形を列挙しておき,その中から選んでもらう選択式にした。
結果の分析から日本と韓国で敬語の使い分けの基準が違っていることがわかった。
(1) 韓国は親(特に父親)に丁寧に接するが,日本は親友などと同じような低い丁寧度で接する。(2) 兄弟姉妹を比較すると,日本は誰に対しても同じように接するが,韓国は,兄・姉に対しては弟・妹よりも丁寧に接する。 (3)「大学の上級生」と「大学の年上の同級生」に対する丁寧度の差をみると,日本では両者がまったく違っていて,上級生にはきわめて丁寧に接し,年上の同級生には丁寧でない接し方をするが,韓国では日本ほど大きな差はなく,上級生のほうが年上の同級生よりもやや丁寧なだけである。これらの傾向は,韓国側の敬語の使い分けの基準として「聞き手との年齢差」が大きく働くのに対し,日本は「聞き手との社会関係」が大きく働くということを物語っている。
また,敬語の男女差を調べたとごろ,日本は話し手の男女差が大きく,聞き手の性別はほとんど関係ないのに対し,韓国は話し手の性別も聞き手の性別もともに関係することがわかった。