この論文は,Perlmutter (1971) で指摘され,GB 理論では Empty Category Principle の違反ということで説明されている英語における that-trace effect あるいは COMP-trace effect と呼ばれる現象を Hudson (1984) の提唱する Word Grammar (WG) の理論的枠組みの中で解決することを目的とする。(1a) に示されるような現象が that-traee effect と呼ばれる。__は extraction site を示している。
(1) a. *Who do you think that __ invited him ?
b. Who do you think __ invited him ?
c. Who do you think that he invited __ ?
d. Who do you think he invited __?
すなわち,我々の問題は (1a) の非文法性を説明することである。なぜ引き抜かれる要素が主語であり,かつ that [complementizer] が extraction site の前にあるときに引き抜きが不可能であるのかということを dependeney chain と visitor を用いて説明する。
WG では wh-movement,topicalisation のいわゆる unbounded dependency は,visitor という依存関係を用いて扱われる。
(原則1)移動した要素は,右側の一番近い動詞のみならずこの動詞と extraction site との間のすべてのこの動詞の dependent との間に visitor の関係を持たねばならない。
英語では,visitor の特性を次の規則に定式化できよう。
(2) visitor of word is a post-dependent of word or is a visitor of a post-dependent of word.
(3) visitor of verb is a visitor or is the subject of a post-dependent of verb.
(2), (3) により (4) と (5) の文法性の違いは自然に説明することができる。
つまり,(2) から,that は動詞ではないので who からの visitor の関係は think までは来るが that までは延びず原則1を破り非文となるのに対し,(5) は (3) により think まで延びて原則1を破らず文法的な文となるのである。