"This is a pen." の言えない文法なんて

田原 薫

「AはBである」という固定文は内容的な動詞のない無動詞文である。英語では,無動詞文は存在しない,という建前になっているので "A is B" における繋辞 is を動詞として扱っている。しかし,固定・叙述の関係は節文以下の構造においても随所に見られるから,この関係は句構造の別を横断した,文法の考慮すべき一つの次元である。位相論的統語観〔本誌第90号27~47頁参照〕ではこの関係を加えて三つの次元を設定している。これを収容できない句構造系の文法は文法ではない。位相論的統語観に立脚した句構造の改善案〔ただし universal でなく Euroversal〕を示す〔…は叙述関係〕。句構造もここまで進歩しないと意味論との交流はできない。
I φ ← I'' ← I' ← I° ← V φ ← V'' ← V' ← V° 〔語順の問題はさておく〕
↑   ↑  ↑  ↑   ↑     ↑  ↑  ↑
P    S……Q   A   R     O……C  V 〔位相論的統語観の成分〕

  1. 内容面を動詞の投射,状反面を I (屈折)の投射と考える。ただし 4.
  2. I は文法項目で,独立して現れないから,補足成分を伴って I° と見なす。
  3. V も I も3回の投射(拡充)で最大投射 (Xφ) に到達するものとする。
  4. V が存在しなければ O…C のペアーは I° に直属するから Vφ の障壁はない。
V が存在しても,O…C の投射を資格述語 (Pd) の投射と読み変えることにより
I φ ← I'' ← I' ← I° ← Pdφ ← Pd'' ← Pd' ← V°
↑   ↑   ↑  ↑   ↑    ↑   ↑   ↑
P    S……Q  A    R      O……C(Pd)  V〔Pd は資格述語 ed など〕
この構造から「無動詞句」文ができるが,受動文もその一種である。