日本における方言と共通語の使い分けと台湾における閩南語と国語の使い分け

荻野 網男

日本では,方言と共通語が使い分けられているが,台湾では閩南語と国語(北京方言)とが使い分けられている。本発表では,社会言語学の立場から,両地域での二つの言語の使い分けの共通点と相違点を明らかにする。
日本は東北・関東・関西の大学生676人,台湾は台北・台中・高雄の大学生646人に対してアンケート調査を行った。調査項目は,方言(閩南語)の使用状況,方言(閩南語)に対するイメージ,さまざまな聞き手(あらかじめこちらで設定した人物カテゴリー)に対しどちらの言語を使うか,老人や子供とのちがい,小学校・中学校・高校での使用状況などである。
この調査の結果,次のようなことがわかった。(1)日本の方言は地域差が大きく,特に,東北方言と近畿方言は性格がまるでちがう。(2)日本の方言と台湾の閩南語は,それぞれ共通語・国語という「上位言語」に対し「下位言語」であるという点で共通する。(3)しかし,閩密語は台湾に極めて強く定着しており,その定着度は日本の方言よりもずっと強く,近畿方言以上である。(4)日本は方言は多様であるが,全体としては均質的な言語状況にあるのに対し,台湾はまったく異なる言語が複数混在する言語状況である。