POLITENESS における SOCIAL DEIXIS と HONORIFICS に関する考察

土屋 順子

本研究ではその理論的基盤として,politeness とは人間関係をスムーズに運ぶための距離の概念で,politeness に関する言語表現だけでなくその言語表現に関する行動のルールをも含める概念であるとする。この理論的基盤の中で日本語の honorifics を,人間関係上の抽象的距離を記号化している social deixis の観点から分析を試みる。
第1の分析では,日本語の honorifics の伝統的4分類尊敬語・謙譲語・丁寧語・美化語が,social deixis の観点から honorifics を分析する際の記述的枠組として Brown & Levinson (1978) で提言されている4つの honormc axes, speaker-referent axis, speaker-addressee axis, speaker-bystander axis, speaker-setting axis にどう対応するかを明らかにした。これによって politeness に関する言語表現として,日本語の honorifics を social deixis の概念を通して見ることができるので,日本語の honorifics の伝統的4分類に記号化された人間関係上の距離を明らかにすることができた。
第2の分析では politeness に関する言語表現に関する行動のルール,すなわち人間関係をスムーズに運ぶためにとるべき距離である,a. 社会的距離と b. あらたまりによる距離が,第1の分析で明らかにされた日本語の honorifics に記号化された人間関係上の距離とどのような関連性を持つかを明らかにした。その結果,honorifics に記号化された距離から行動のルールとしてとっている距離を説明できる例もある反面,それだけでは説明できない例もあることが明らかになった。
以上のように本研究では politeness とは人と人とがとるべき距離であるという概念のもとで日本語の honorifics を social deixis の観点から分析を試みた。social deixis の解明のためには従来の研究のように使用のルールと別個に扱うのではなく,その言語表現の面と使用のルールとの両面から分析されるべきであると考えられる。