トクピシン語の前置詞 'long' の省略機能について
岡村 徹
トクピシン (Tok Pisin) は,パプアュューギュアという多言語社会において,lingua franca (リンガ・フランカ)として主にニューギニアサイドで話されている英語系のピジンである。前置詞 'long' は,英語の前置詞になぞらえると,at,on,in,to,from,with,by,of... などに相当するが文法的な機能は1つであると思われる。
- V + long NP (時や場所を表わす語句)
- V-im + Obj. + long NP
の構造において,動詞と NP との統語的・意味的な関係が,'long' の省略とどのように結びついているのかを明らかにしようと試みた。述語の性質については,意味的に状態を表わすものより,移動を表わすものの場合に,'long' が落ちやすい頬向にあり,さらに NP に場所性が加わると,いっそう落ちやすく,
ピジン語特有の multipurpose な側面がみられる。位置に関して,文頭では時詞は場所を表わす語句より副詞化しやすく,
上層語の影響を受けている可能性が高い。(図表は省略)
例
Mi go skul Tunde.
= I am going to school on Tuesday.
Mi malolo skul.
= I rest at school.
Tumora em bai i go.
= Tomorrow he will go.
*Long tumora em bai i go.
= *On tomorrow he will go.
(なお,省略可能性については,インフォーマントの判断に基づいている)