ムエニ語動詞のアクセント

湯川 恭敏

ムエニ語 (Simwényí)は,ザンビアの西部の中心地モングから西北西約80kmの町カラボの周辺に話される,話し手人口約6千人の小言語で,ルヤナ語の一方言である。動詞は,アクセントの面から2つの型に分類でき,不定形(「~すること」といった意味)で例示すると,kúba 「与える」,kúmoná 「見る」,kúsindékécá 「送って行く」(ku- は接頭辞,-a は語尾)等(kúCV(N)X́ でアクセント表示しうる。X は任意の音素列)と,kunyázá 「責める」,kulúkúlúlá 「放す」等 (kuX́) の如くである。語幹直前に対格接辞(「私を(に),…,「それ(ら)を(に)」)がはいることがあり,単数1~3人称のそれ (O1) がはいると,kuÓ1CV(N)X́ および kuÓ1X́ で表示できる形となり,その他の対格接辞 (O2)がはいると,kúO2CV(N)X́ および kúO2X́ で表示できる形となる。直説法では,語幹の前方に立つ時称接辞(ゼロの場合あり)と,a, V(語幹最終母音と同じ母音。例外あり),ile (異形態あり),anga,e 等の語尾との組合せなどで「時」があらわされる(否定形の場合は,否定辞もあらわれる)が,語幹の前方に立つ主格接辞が1・2人称であるか否かによってアクセントの異なるものもある。不定形と直説法各テンスの(形と)アクセントを調べた上で,そうしたアクセントが,各テンスの形を構成する形態素もしくはその連合に固有のアクセント的特徴を仮定することですべて説明できるかどうかを見ると,一応「矛盾のない」説明はできるが,仮定内容に一般性の稀薄なものがかなり含まれることになり,この言語では,少くともあるテンスについては独自にあるアクセントをとっていると考えられることになり,前回扱ったンコヤ語などとはかなり異なり,上述の如き説明はあまりうまくできないといえる。やはり,言語(あるいは,その話し手)にとっては,構成部分(附属形式)のそれよりも,テンスの形全体のアクセントのほうが第一義的であるらしい。