本発表は,村田 (1984)「人工オノマトペによる日本語音声ハイエラーキ」(『言語研究』85号)で提示した日本語の音声ハイエラーキ中,位置づけが未解決のままである附属モーラ(促音,撥音,長母音)に関したものである。前回と同様の方法で,609名の大学生から得たデータを,カイ2乗検定法で分析した結果,「促音<撥音<長母音の第2要素」であることがわかり,さらに,高母音 i が,ほぼ促音と撥音の強さと同等で,高母音 u が以上の3種の附属モーラ音に大体相当することから,前回の母音ハイエラーキと平行に位置づけられることとなった。つまり附属モーラは,音声学的には母音,子音の両方にかかわりあうが,心理的な音の強さは,母音の i と u に相当することがわかった。ただし,一モーラ分相当ではあっても単独で自立した音節は形成しないことから,日本語音節構造の母型は次のように考える。
田端の一連の研究を参考にしつつ,本発表ではXスロットを利用して,日本語の特に附属モーラの音韻プロセスを考察した。
また,音声ハイエラーキ利用の一例として,促音形成が,子音らしさが弱まるに従って日本語では困難になることを,各種の実例及び子供のニックネーム作りをあげて示した。
さらに重子音に対する仮説として,「重子音は,それぞれの言語の音声ハイエラーキ上,子音らしさの弱い音ほど使用されにくい」ことを提案し,アラビア語,イタリア語,ノルウェー語,朝鮮語,日本語,フィンランド語の重子音がこの仮説に適合することを述べた。つまり,半母音,流音,鼻音の方から重子音化することはないという仮説である。