ンコヤ語動詞のアクセント

湯川 恭敏

ンコヤ語というのは,ザンビア西部地方のカオマの周辺に話されるバントゥ系の言語で,話し手人口は3万人程度である。
この言語の動詞は,それ自体としてアクセントの面から2つの型に分けられる。不定形(構造: ku+語幹+a)で見ると,kǔja,「食べる」,kumôna 「見る」,kumónesha 「見せる」といったもの(A型)と,kuwisha 「倒す」,kulongesha 「教える」といったもの(B型)とてある。対格接辞が語幹直前にはいることがあり,その如何によってアクセントの差が生まれる。 mu 「彼を(に)」,ba 「彼らを(に)」のはいった形は,たとえば,kumumôna, kubómona ; kumuwisha, kubáwisha の如くである。
直説法各形では,主格接辞の如何によってもアクセントに差が出ることが多い。たとえば,近過去形(構造: 主格接辞+a+(対格接辞+)語幹+a)では,námona 「私は見た」,námúmôna, nábamona ; wamona 「彼は見た」,wamumôna, wabámona ; náwisha, námuwisha, nábawisha, wawisha, wamuwisha, wabáwisha の如くであり,未来形(主格接辞+ka+(対格接辞+)語幹+a)では,níkamôna.「私は見る」,níkamumôna, níkábamona, ukamôna 「彼は見る」,ukamumôna, ukabámona ; níkawisha, níkamuwisha, níkábawisha, ukawisha, ukamuwisha, ukabawisha の如くである。
このような各活用形のアクセントを調べた上で,そうした形を構成する形態素(連合)がそれぞれ固有のアクセント特徴(他への影響のしかたや他からの影響の受け方を含む)を有すると仮定し,それで活用系の全体アクセントが説明しきれるかを見てみると,この言語では若干のわりきれなさを残しながら何とか説明できるが,そのようなやり方が理論的に100%可能であるわけでなく,それを裏づける実例もある。それは,こうした形態素が「附属形式」であることによると考えられる。