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古代アラビア語の非使役的 IV 形について
―アスペクトと使役

西尾 哲夫

古代アラビア語の動詞派生形第 IV 形は,動詞の原形に接頭辞 /ʔa-/ を付加することによって派生され,原形に対して使役的意味を持つが,(例 samiʕa 'to hear' > ʔasmaʕa 'to cause to hear')使役的意味を持たず,原形と類似の意味を特つ IV 形がある(例 basura 'to see' > ʔabsara 'to see')。このような非使役的 IV 形に関する従来の記述は,曖昧ではあるが,denominative 分析と reflexive-causative 分析に分けられる。 しかし,前者については,(1) 対応する原形が心理状態を表す動詞または知覚動詞の一つのクラスに限定されていること,(2) 使役的意味を同時に特つ非使役的 IV 形が実証されることから,妥当ではない。また,後者の使役者と被使役者を同一指示とする分析についても,(1) 非使役的 IV 形は補文中の目的語を主語にする受動化か可能であること,(2) 目的語省略の制限に反すること,(3) IV 形の本来的再帰形式の X 形との比較から純粋な再帰形式とみなし難いことの理由から,妥当ではない。従って,非使役的 IV 形の統語構造は,補文構造のない Simplex な構造が想定できる。
そこで,非使役的 IV 形の意味機能が問題になるが,特に,ʔabṣara と一連の『見る』動詞のコーラン中の生起倒についての対照的考察の結果として,この使役的 IV 形が「開始相 (inchoative)」の局相アスペクトを明示的に表現する形式であると言える。例えば ʔabṣara は,「見ている」という状態の開始点に焦点をあてることによって,それまでの「見えていない」という状態との間の区別を強調し,「(今まで見えていなかったものが)(能力的または経験的に)見え(はじめ)た」または「(経験的に)見(ることを意志的にはじめ)た」を意味することになる。
また,以上の分折から状態性と使役の関係として,(1) 状態 (stative) (2) 開始態 (inchoative) (3) 行使態 (agentive) を区別でき,(1)(2)(3)の語彙化の型と派生関係の型によって,(1) 中心型,(2) 中心型,(3) 中心型に言動を類型化できる。

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