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受動文はヨーロッパ諸語において好まれるか

下宮 忠雄

近代ヨーロッパ的改新 (neueuropäische Neuerung) の一つである 'sum laudātus', 'fiō laudātus' の型の受動文はゲルマン語,ロマンス語,リトアニア語,アルバニア語等に広く発達している。 I am praised, ich werde gelobt, je suis loué, it. sono lodato など。これに反し,ヨーロッパの裏庭 (Hinterhof) と呼ばれる東欧,スラヴ語域はこの改新に消極的で,ロシア語は menjá xváljat,すなわち,'mē laudant' の形式を用いる。現代ギリシア語も同様に me epainoûn 'mē laudant' という。
再帰代名詞(印欧語根 *se)に由来する受動表現(semi-passive, quasi-passive とても呼ぶべきか)も比較的広く見られる。「…といわれる」のスペイン語 se dice,イタリア語,si dice, ルーマニア語 se spune (< expōnere),スペイン語 aqui se habla español (ここではスペイン語が話される)。デンマーク語 jeg roses (私はほめられる; -s < *sik),ロシア語 kniga čitajetsja (本が読まれる)'liber legit-se' の型など。ロシア語にも "be+p.p." の受動文 Peterburg byl postróen Petróm Velíkim (ペテルブルグはピョートル大帝により建設された)がある。イタリア語とレト・ロマン語には 'veniō laudātus' の型がある。
H. Lausberg (Romanische Sprachaissenschaft, Bd. 3, Berlin 1962) は 'sum laudātus' の型は民衆的ではないと言い,H. Naumann (Kurze historische Syntax der deutschen Sprache, Strassburg 1915) も民衆は受動文を奸まないと言っているが,ことわざなどには意外に多く,ジャーナリスティックの文体はこれを好む。(発表会場で町田健,森田貞雄,松本克己,田原薫,吉田和彦の諸氏から有益な発言を得ました。)

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