日本語の統語・語彙構造と時制辞の分布
神尾 昭雄
日本語の基本的統語構造を,述語の構造に関する筆者の未発表論文の結果に基いて,次のように動詞(述語)の projection から或るものとする。
また,文 (V
2) は次のように Af をとり,最大投射 V
3 を構成する場合と,
Af をとらずに V
2 のままである場合とがあるものとする。
以上のような基本的構造を仮定し,C-command,government,binding および governing category について,現行の生成文法理論において認められている定義を採用すると,以下のような結果が得られる。(1) 時制辞はその統率範疇内において自由でなければならない。
この結果は,明らかに英語などに関する束縛理論,特に Chomsky による束縛原理 B,すなわち
(2) 代名詞はその統率範疇内において自由でなければならない。
と基本的に同一である。さらに,英語の時制辞の分布についての原則を求めると,日本語に関する (1) とほぼ同一の原理が得られる。
以上の結果は,日本語の時制辞の分布が,英語の時制辞および代名詞の分布と本質的に同じメカニズムに従っていることを示している。また,これらの結論が正しいとすれば,上述のような統語構造の妥当性が示される。