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音芯論の提唱
―非示差的特徴の研究―

城生 佰太郎

音韻論は,内容たる意味から便宜的に言語記号の外形のみを切り離し,要素の数を極力最小限に抑制してきたお陰で長らく言語学の中では理論化の牽引車として華々しい成果を挙げてきた。しかし,その一方で N. S. Trubetzkoy が提唱した「告知音韻論」や「呼び掛け音韻論」が今だに構想の段階を一歩も出ていないとか,最も基本的な概念の一つである音声学と音韻論の区別でさえ,服部四郎氏が指摘するように必ずしも明確ではない部分を残しているといった事実がある。
そこで本研究では,従来の音韻論が示差的機能を重視するの余り,ともすれば等閑視されがちであった「社会習慣的型」にフォーカスを合わせることによって,上述した音韻論の積み残した課題に迫ることを目的とした。
方法論としては,従来の抽象論がボロボロと落として行った滋養分を言わば「落穂拾い」のように音声学的基盤に立って拾い集め,その中から社会習慣的型として体系化できる部分を抽出し,これに音芯論的レベルというレッテルを貼る。即ち私見によれば,言語の音的側面に拘る諸現象は E. Coseriu の提唱する langue-norma-parole の三分割と平行的に,音韻論(機能的体系を扱う),音芯論(社会習慣的体系を提う),音声学(具体的な発話体系を扱う)の三大部門で捕捉することになる。
利点としては,東京の「鼻」と「花」のように音韻論的レベルでは必ずしもスッキリしない現象に対しても,◤LM◢ 又は ◤LH◢ 対 ◤LH◢ という形で複数の「音芯の型」を素直に記述できる点,即ち併存形に対する偏見のない扱いができること,非示差的特徴にも或るレベルでは示差的特徴と対等の価値を附与し得ること,更に「××語らしさ」に,より一層客観的に迫ることを可能にする,等の諸点を挙げることができる。
なお,この考えの萌芽は既に城生 (1981) にあり,その後,城生 (1982-a, -b, 1984) などでも部分的に公にしたことがある。

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