子供による日本語の助数詞(類別詞)の習得において観察される習得順に基づき,1)習得順を決定している要因は何か,2)習得順のいくつかのタイプはどのような場合に見られるか,の二点を論じる。習得順の決定要因については,従来,1)意味的複雑性,2)input における使用頻度,3)認知的複雑性などが挙げられてきた。また,習得順の型としては次元形容詞のように意味的制限の緩いもの (e. g. big-small) から習得が始まる場合と動物名のように中間的なレヴェルの単語 (e. g. dog, cf. animal, collie) から習得が始まる場合の二つがあることが指摘されていた。
これらの問題に照らして,1)初期の -tsu, -ko, -ri/ -nin(3-5歳児38名),2)動物について使われる -hiki, -wa, -too (5,6歳児38名),3)形に基づく -ko, -hon, -mai, -tsubu (5,6歳児32名),そして,4)形以外の基準に基づく -dai, -soo, -ki, -satsu, -ken (5-7歳児36名)に関する発話実験調査の結果を検討する。その結果,物を数えるものでは -tsu あるいは -ko,人では -ri/-nin,動物では -hiki のように,意味的な制約が緩く頻度の高いものから習得が始まり,それらの使用範囲により限定性が高く,頻度の低い助数詞が割込んで来る形で習得が進んでいくことが分った。つまり,助数詞の習得は次元形容詞と似た習得順の型を見せており,この型が動物名における basic level のような機能的に優位な中間的レヴェルがない語彙領域に見られるとする説が支持される。また,習得順の決定因としては意味的な制約(意味的複雑性)あるいは使用頻度が一見有力であるが,細かく見ていくと必ずしもその順に従っておらず,類似した助数詞の存在,数詞の習得,誤りやすい意味範躊の存在,input における使用パターンなどの要因も関わっている。ここから,語彙における習得順は,いくつかの要因が異なった役割を果たしながら絡みあって決定されるという結論が導かれる。