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マリ語の「動詞+動詞」型の複合動詞

松村 一登

ボルガ川中流域は,フィン・ウゴル系のマリ (Mari) 語,モルドビン語,ウドムルト語,チュルク系のチュワシ語,タタール語,バシキール語,スラブ系の口シア語などが話されている多言語地域である。マリ語を母語とする話者はおよそ54万人(1979年)で,その大半はマリ自治共和国およびその隣接地域に住む。マリ語とチュワシ語,タタール語との間の何世紀にもわたる言語接触の影響は,語彙の面だけでなく,形態・統語の面にも及んでいる。日本語の「動詞+動詞」型の複合動詞に非常によく似た構造が見られることも,これら3言語に共通した特徴のひとつである。
日本語における複合動詞のように,動詞を2つ組み合わせて用いることはアジア大陸の諸言語の間では比較的よく見られる現象のようであるが,それらの構造が形態・機能の点て日本語の複合動詞とどの程度まで似ているのかについては,詳しい研究が少ない。
日本語の複合動詞(投げ込む)は,後項動詞が活用するのみで,いわゆる連用形であらわれる前項動詞は形を変えない。連用形は,統語的にはいわゆる接続形(家に帰り,休む)として用いられる形であり,この点でテ形(家に帰って,休む)と機能が共通する。また,テ形は複合動詞に類似した「捜して歩く」のような構造をつくることもできる。
マリ語の「複合動詞」(возен колташ 書いて送る)も,活用するのは後項動詞で,「H- 副動詞」の形をとる前項動詞は形を変えることがない。「H- 副動詞」は,日本語の連用形やテ形と同じく,接続形として用いられる形である(мӧн''гыш толын, урокым ямдылаш тӱн''але 家に帰り,予習を始めた)。また後項動詞として用いられる一連の動詞も,意味的に見て日本語の場合とかなりの共通性があり,動作の起り方や程度,あるいはアスペクトに関する意味を添える働きをしている。

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