本論は,日本語オノマトペの表現力を lexical,syntactical,textual の各レベルにおいて検証しようとするものである。問題点を明らかにする意味で英語との対比を適宜行なう。
まず,lexical レベルにおける adverbial としてのオノマトペと動詞との依存関係を,言理学的枠組で記述すると,以下のようになる。
Dependence | Constellation | Determination | Interdependence | |
Level | ( V | V ) | ( V → C ) | (C ←→ C) | |
Lexical [V = variable] [C = constant] |
ゆっくり歩く (walk slowly) |
とぼとぼ歩く(plod) | ||
にこにこ笑う (smile) |
にっこりほほえむ (smile) |
Constellation の場合,オノマトペと動詞との結合はかなり自由であり,Interdependence の場合には重複的である。しかしこの類の例は少なく,日本語オノマトペの大半の依存関係は Determination である。ここでの例で言うと,「とぼとぼ」と「にこにこ」が中立的な動詞の意味を,それぞれ specify している。
更に,「つるつる滑る」 (too slipperly),「からからに乾く」 (quite dry) のように,英語では degree marker であるところが,日本語ではオノマトペ表現になる。他方,こうしたオノマトペが predication として用いられると,「(滑って)つるつるだ」とか,「(乾いて)からからになる」といった形をとる。
オノマトペが文法項目と共起した場合,「さっぱりわからない」,「すっかり見てしまう」,「ずっと扇を使いながら」のように,否定や完了・進行相をオノマトペが規定している。
Textual レベルでは,英語における倒置といった文体的効果を,オノマトペが担うことがある。「ズーンとアリスは落ちて行った」 (Down went Alice...) のような場合である。
要するに,場面と直接に結びついたオノマトペは「臨場感」に富む表現を可能にする。この効果を最大限に利用した宮沢賢治の作品におけるオノマトペの使用を,conventional / innovational の角度から検討し,それを彼の三次元/四次元の世界と関連づけて考察することはまことに興味深いことである。