無声音産生の喉頭制御機構について

吉岡 博英

目的・言語音は声帯音源を件う有声音と,それを伴わない無声音とに大別される。一方,持続発声時には,声門が適度に閉鎖し,かつ充分な声門上下圧差が生じていることが必要であることが知られている。従って,種々の有声音・無声音連続からなる日常会話では,これらの声門における物理的条件を経時的に巧妙に変化させ,それぞれの言語音連続に必要な声帯振動の ON-OFF 調節がなめらかに行われていると考えられる。今回はとくに有声音・無声音が前後して現われる音連続のうち,無声区間に注目し,諸言語での無声子音連続や,日本語に特有の無声化母音の産生機構について,生理学的手法を用いて明らかにすることを目的とした。
方法・声門面積変化の解析には,ファイバースコープの光源を利用した光電グロトグラフィと喉頭像のビデオ録画を用い,声門開大筋である後輪状披裂筋の筋電図の同時記録も行った。また症例によっては声門上圧の計測を,カテーテル先端型ミニチュア圧トランスデューサを経鼻的に捕入して,行った。なお被験者は,日本語(東京方言),米国英語(東部出身),スウェーデン語,アイスランド語,オランダ語の各話者である。
結果・無声音の産生は,一般的に声門の筋肉による能動的な開大により行われていることが知られた。しかし,無声音連続の産生の際には,一峰性の開大現象を件うとは限らず,構成音素の音声学的環境に基づき,あるときには二峰性に三峰性にと,規則正しく実現されることがわかった。また例外として,語末の無声破裂音で破裂を件わない無声音は,開大せず,むしろ強く閉鎖することにより産生されることがわかった。東京方言でみられる無声化母音は,本来声門が閉じて産生される母音が逆に開大することにより無声化することが知られた。