語順の変わる原理
―ニューギュアのオーストロネシア語の場合

崎山 理

ニューギニア島沿岸部のオーストロネシア語 (AN) には語順が本来の S-V-O 型 (AN1) とパプア諸語 (NAN) の基層的影響によると推定される S-O-V 型 (AN2) とがある。しかし NAN からの外的理由だけでなく AN 内部の統語論的理由がそれに先行していたことを,従来の類型論的分析で問題とされない交差的 (cross-over) な内部構造を持つ語例から明らかにする。フィリピンの諸言語は通常,V-S-O(またはV-O-S)型をとるとされるが,南部のセブアノ語では secondary topicalization (M. Shibatani) として行為者重点文に O-sVo-S という形式が現れる(1)。小文字の s, o は動詞ないし代名詞接辞でそれぞれ S, O と照応し動詞語幹とともに動詞句を作る。この形式はミクロネシア西部のパラウ語のいわゆる受動形構文と等しい。ニューギニア島に近い東部のヘスペロネシア語派にこのような形式が出現するのは暗示的である。o, s は文法的には sVo においてその機能が明示されているため,語順としては自由な位置にある。つまり S-sVo-O(この形式はメラネシア語派の特徴をなす)はもとより,S-O-sVo にも意味的混乱をひきおこすことなく移行しうる。ただしその契機として NAN からの影響は無視できないであろう。 NAN の場合,孤立言語的で単純な S-O-V 型語順をとる言語は少数で(エレマ言語系トアリピ語ほか),若干の S-O-soV 型 (トランス・フライ言語系ほか),S-O-Vso (センタニ言語系ほか)を含め多くは S-O-oVs 型をとる。(2 東パプア言語門クオット語) AN2 は NAN と見掛けは同じ語順であるが rigid な部分 (E. Sapir の morphological kernel) は依然として相違する。(3 トバティ語)
AN2 において発生した後置詞の由来も、ミクロネシア西部のメラネシア語派系ヤップ語,ウリシー語に見られる前置詞の anaphoric な表現形式にその起源を見ることができよう。(4 ヤップ語)
1) Si Maria na-higugma niya si Juan. "Maria, Juan loves her."
2) Kulot la aximarung. "The boy, I saw him." [kulot (boy) - la (obj. emphasizer) -a (mas. sg. obj.) -xim (see) -a (glide) -ru (1 sg. subj.) -ng (sentence-final)]
3) Intia těmi ni for nexut yanrox. "He gave me his father's pig." [intia (nti: 3 sg. ind.) -těmi (father) -ni (of) -for (pig) -nex (1 sg. ind.) -ut (to) -y (3 sg. subj.) -an (give) -rox (1 sg, obj.)]
4) Donguch ëë ku guub riy. "(It is) Donguch that I came from. " [riy (from, at, in that place)]