Lambek の統語計算演鐸体系による主語・補助詞倒置 (SAI) の分析

藪内 稔

0. ごく最近,Ajdukiewicz (1935) の基本構想に立ち戻って,範疇文法の理論的枠組から自然言語を研究しようとする積極的なアプローチがみられる。Bach (1983) や Schmerling (1983) による英語補助詞の研究や Flynn (1983) による語順規約の研究がそれである。
1. Bach は主語・補助詞倒置を次の語彙規則で表している。

(T\S) / (t/e
[nom] [+tns]
←→
(S / (t/e))/T (1)
[+tns]  [nom]

ここで T は名辞句,(t/e) は自動詞の範疇ラベル,tns は時制素性である。
この語彙規則は Ajdukiewicz (1935) の範疇文法の構想を Gentzen (1935) の Sequenzen Kalkül の方法に従って形式化した Lambek (1958, 1961) の統語計算演繹体系 Σ によって容易に導かれる。
2. Lambek は統語計算演縁体系 Σ を次のように定義した。
タイプの定義: 1) 基本タイプはタイプである。2) xy とがタイプのとき,(xy), (x/y), (x\y) はタイプである。式の定義: タイプ x の仮定の下にタイプ y が成立することを式 xy,で表す。規則: (a) xx, (b) (xy)zx(yz),(b') x(yz) → (xy)z,

(c) xyz (c') xyz (d)xz/y (d') yx\z (e) xy yz
xz/y, yx\z, xyz, xyz, xz

(a) および結合律 (b), (b') を公理とし,(c) ~ (e) を推論規則とする演繹系をタイプの結合的計算と称することもある。
3. Lambek の演縁体系 Σ によって平叙文における AUX の範疇を求めると,規則 (c), (c') により,

T AUX (t/e) → S (c)
(c')
(2)
T AUX→S/(t/e)
AUX → T\ S/S/(t/e)

同様に,疑問文における AUX の範疇は,

AUX T(t/e) → S (c) (3)
AUX T→S/(t/e)
AUX → S/(t/e)/T

よって,(2), (3) より主語・補助詞倒置の語彙規則 (1) が導かれた。

文 献