英語複合語の内部構造
X-Y-suffix という形を持つ英語の複合語の中には,"level ordered morphology" の仮説に反して,(a) ではなく (b) の基本的構造を持つものがある。
(a) [X-[Y-suffix]] (b)[[X-Y]-suffix]
set theoretic 等の例は意味のまとまりの面から (b) の構造を持つと考えられる。light eater のような例では,意味上 light が修飾しているのは eater ではなく eat という動詞である点や,「量が少ない」の意味の light という形容詞は人を表わす名詞を修飾することは通常できないという選択制限の面から,(b) の構造が支持される。又,good-looking, good looker 等の例では argument linking の条件から (b) の構造分析が支持される。一般に形容詞や名詞は "predicative expression" の形容詞を argument としては取れない (*The soup is tasteful nice, *the feeling smooth of silk) ので,good はlooking A や looker N ではなく look という動詞の argument であると分析されるが,一般的に X の主語以外の argument は X の sister でなければならないという制約があるので,good が look の sister となる (b) の構造が支持されるのである。
意味上のまとまりや選択制限,argument linking の条件から基本的に (b) の構造を持つと分析されるこれらの複合語も,音声表示では X と Y-suffix との間に主な切れ目があり,(a) のような形になっている。従って表層レベルで (b) を (a) に変える一種の再調整規則が必要となるが,この規則の結果生じる構造は表面的に category selection の条件を満たさなければならないという制約がある。light eater は,前述の分析により light は副詞と考えられ,再調整規則の結果 [Adv-N]N となる。これは厳密な意味では category selection の条件を破っているが,light という副詞は表面上,形態的に形容詞と区別できないために light eater は容認される。一方,同じ [Adv-N]N でも副詞に -ly の語尾がつくと容認不可能 (*lightly eater) となるが,これは表面的にも category selection の条件の違反となるためである。表層レペルの再調整規則に,ごく表面的な制約が課されるのである。