本稿では南 (1974)* の段階説を有縁性というテキスト(観念的レベル)に属する概念の立場から再考する。有縁性はディスコース(観察可能なレベル)の要素(ここでは文)の間の意味的関連性を数量化したものである。
入力文間の有縁性を量るためそしてこうして得た有縁性がシンタクス的指標によってどう示されるかを調べるため,単文で書かれたディスコースから複文で書かれたディスコースヘのパラフレーズ調査を行なった。 Chafe (1980)** をもとに入力ディスコース上の二つの単文の間の有縁性を,その単文に出力ディスコースで対応する要素を被験者たちが同じ文内に纒めた例の比率として作業的に定義する。入力ディスコース上の全ての単文間の有縁性は matrix を成す。ここで入力ディスコースの単文間の有縁性のハイアラキーを,その matrix の上で行なった single linkage による cluster 分析の結果として定義する。
調査の結果,出力ディスコースで有縁性の強いものほどその関係が優先的にシンタクス的指標によって示されることが分った。更に,有縁性のハイアラキーは南の段階のハイアラキーに投影される。従って,南の説は文中の従属節の分類だけではなく,テキストの意味的構造に動機付けられているとかんがえられる。
*) 南不二夫 (1974): 『日本語の構造』,大修館
**) CHAFE, W. L. (1980): 'The deployment of consciousnes', in CHAFE, W. L. (ed): "The pear stories", Ablex, Norwood, N. J.