ワロゴ語談話における共指示と能格性

角田 太作

オーストラリア東北部の原住民語,ワロゴ語では,名詞の格は能格型(他主≠自主=他目 ; 能格≠絶対格=絶対格)であるが,代名詞の格は対格型(他主=自主≠他目 ; 主格=主格≠対格)である。主文と従文の間での共指示名詞句消去で好まれる型は,名詞でも代名詞でも,能格型(他主≠自主=他目)である。しかし,実は代名詞の消去は二つの点で名詞と異なる。第一に,共指示の型が能格型に合致した場合,名詞は殆ど必ず消去されるのに対し,代名詞は保持される例が多数ある。好まれる消去の型は能格型であるのに,代名詞の格は対格型であるので,recoverbility を保つ為に保持されるのであろう。第二に,代名詞には対格型の消去の例(即ち,能格型消去の例外)もかなりある。この例外も,消去の型が格の型と一致しているので,recoverability が保たれるのであろう。
Anderson (1976) は能格言語では格は統語構造と無関係であると論じたが,これは不適切である。ワロゴ語では格が消去/保持と消去の型に影響する。又,従来の能格言語における共指示の研究は消去―時に,消去の可能な型と消去の不可能な型の区別―を追求した。しかし,本語では(可能な型ではなく)好まれる型を調べ,更に,消去,保持,例外の頻度と例外の起り易い条件を調べた。談話の研究には本論で用いた方法の方が有効である。

参考文献等