○日本言語学会大会発表賞


第160回大会(2020年春季,オンライン)の大会発表賞(3件)


王 丹凝氏
「南琉球宮古語新城方言における再帰代名詞duuとnaraの使い分け」

 本発表は南琉球宮古語新城方言における再帰代名詞の3つの形式、una、duu、naraの使い分けを記述し、特に機能的に類似した duu と nara に注目し、duu は一般的な再帰代名詞として汎用性がある一方、nara の使用には人称・格の制限があることを報告した。さらにCase Hierarchy (Blake 2001,2004)との関連を指摘し、本研究の類型論への示唆が論じられた。インフォーマントが1人であることや、発表スライドについて一部音声解説が欠落しているところなどについて改善の余地を指摘されたが、全般的に論が明快で発表もたいへん分かりやすく、方言調査に基づく記述にとどまらず類型論への貢献が論じられるなど、将来性の観点からも高い評価が得られた。


津村 早紀氏(共同発表者:新井学氏、馬塚れい子氏)
「子どもの言語理解能力の発達と抑制機能の関係性」

 本発表は、絵の判定に基づくGo/No Go課題によって計測した抑制機能の指標とガーデンパス文の解釈という言語処理機能の指標に相関があるかを5歳から8歳までの⼦どもを対象として検証した。その結果、両者の関連がみられ、混乱を誘発する⽂の理解において、抑制機能の個⼈差が影響している可能性が⽰された。刺激として用いられたガーデンパス文の逸脱性に関して意味の観点からの統制が必ずしも十分でないといった課題は残されているものの、実験計画や問題設定については新規性および発展性があり、着実な分析手法が取られている点などにおいて高い評価がなされた。


峰見 一輝氏(共同発表者:広瀬友紀氏、伊藤たかね氏)

「日本語wh疑問文における文法性の錯覚と記憶処理─文読解中の視線計測実験─」

 本発表は中央埋め込み補文を含む主節wh疑問文をめぐって、文法性の錯覚が作業記憶への探索を駆動するかを視線計測によって検証した結果を報告している。ここで問われている研究課題は、文解析器と文法が独立した異なる認知システムなのか(「独立仮説」:Townsend and Bever 2001)、それとも同じ認知システムなのか(「同一仮説」::Lewis and Phillips 2015)である。本発表では、文法性錯覚に基づく読みの促進が非文においてのみ観察されたと報告され、文解析器が文法性によって異なるふるまいを見せる点で「同一仮説」を支持するとの結論が出された。促進と抑制のロジックがやや分かりにくかったが、文法性の錯覚の実時間処理を正文と非文の比較から検証した点に新規性があり、また、論の立て方が周到で、発表もたいへん落ち着いていて着実だった点に高い評価を与えられる。



[授賞式(第161回大会,11/22,オンライン)]
2020年度発表賞授賞式-王

2020年度発表賞授賞式-王

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