第157回大会(2018年秋季,京都大学)の大会発表賞(3件)

・青井隼人氏
「北琉球沖縄語伊江方言の破裂音」

沖縄語伊江方言をはじめとする北琉球のいくつかの言語では、閉鎖音に3つの系列が認められ、これまではその対立の一部に喉頭の緊張が関わっているとされてきた。現地調査によってこれらの方言の音響特性を調査した結果、喉頭の緊張に関わる音響特性は認められず、有声性および帯気性のみで実現されていることを示した。ほかの要因についての考慮や先行研究の観察に対する解釈も必要になるが、声門閉鎖について内観のみならず音響特性などを用いて研究する必要があることがわかりやすく説明され、音韻研究としても示唆的なものであった。
・江畑冬生氏
「トゥバ語における疑問詞疑問接辞の否定文での用法: egophoricity からの説明」

トゥバ語には疑問詞疑問文をはじめ反語文、譲歩節、相関構文などに現れる疑問詞疑問接辞があるが、「ない」を述語とする平叙文にも同接辞が現れることがある。その理由について、同系のサハ語の疑問詞疑問接辞とも対照して考察し、自己性(egophoricity)から統一的に説明可能だと主張した。扱うテーマに斬新さがあり、同種の研究を促す契機となり得る点が高く評価できる。自己性による分析の正当化などに課題もあるが、現象を分かりやすく丁寧に説明しており、質疑に対する返答からも豊富な言語データを発表者が有していることが窺われた。
・平子達也氏
「出雲仁多方言の母音をめぐる音変化について」

島根県仁多方言で想定される種々の音変化の条件を整理し、それらが起きた相対年代を推定した発表である。本土方言の音韻の詳しい研究が日琉祖語を視野にいれた比較言語学的研究につながるという主張がなされ、今後の研究に示唆するところがあった。個々の分析では説得力が十分でないと思われる部分もあったが、全体として発表の仕方、質疑応答は水準を上回るものであった。


授賞式(第158回大会,6/23,一橋大学)

2018秋発表賞