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現代モンゴル語における閉音節化現象

栗林 均

モンゴル語の「弱化母音」は,調音の弱化と中舌化を特徴とする非強勢の短母音である。語の強勢は常に第1音節の母音に置かれているので,これを第2音節以降の短母音ということもできる。単語内で弱化母音が生起するその位置については,次のような条件が認められる。

  1. 語末(開音節)の短母音の極度の弱化と消失は現代モンゴル語の顕著な現象であるが,語中においても開音節の短母音は一様に極めて不安定で,消失していることが観察される。要するに,これらは「開音節弱化母音の消失」というひとつの現象に帰することができる。現代モンゴル語で弱化母音が比較的安定して保持されているのは閉音節の音節主音として現れている場合である。
  2. 「開音節弱化母音の消失]に付随して,語中に新たに弱化母音が生じる現象がある。それは,C1C2V̆(C は子音,V̆ は弱化母音)の連続で C2 が b, g, m, n, l, r, j の場合である。C1C2V̆ → C1C2C1V̆C2, これは結果的にはメタテーゼに等しいが,短母音の挿入は上記子音の sonant 的性質によって惹き起こされたものと考えられる。(ちなみに語中における B=β,g=γ)。例: arbă 《+》 (→ arb) → arăb.
  3. モンゴル語では語頭音節を除いて母音はじまりの音節は存在しないので,2. でみたような,語中に挿入された母音はそれに先行する子音をもとの音節から切り離す。その際,切り離された子音の前の弱化母音は消失する(開音節化の結果)。例: turšǐlγă 《実験》 (→ turšǐlγ → turšǐlăγ)→ turšǐlălγ
  4. また C1V̆C2V̆ の構造で C1 が b, g, G, m, n, l, r, j, C2 が t, c(=ts), č(=tʃ), z(=dz),ž(=dʒ), (š(=ʃ)) の場合に (→ C1V̆C2) → C1C2 の子音連続が認められる。(他に C1=s, x, C2=t, tʃ の場合も同様)例: gereči 《証拠》 → gerč。他の場合には C1V̆C2 として子音間の弱化母音は保持されている。

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