Tough 構文に関しては,容認性判断にゆれ(個人差)があり,たとえば Wh 句摘出について,Nanni のように非文とする人もあれば,
(1) *Which cupboard were the bagels tough to put ― in ― ?
Schacter のように,可能であるとする人もいる。
(2) Which of these dresses would Mary be easier to fit ― into ― ?
さらに Schacter は,時制補文内からの tough 移動を許すが(多くの話者は許さない),その際,次のような主語と目的語の不均衡を示している。
(3) a. Mary is hard for me to believe John kissed ―.
b. *Mary is hard for me to believe ― kissed John.
(4) a. Mary is easy for me to understand why John dated ―.
b. *Mary is hard for me to understand why ― dated John.
このようなゆれを説明するために,言語話者による,事実に関する文法的認識の違いを仮定する。通常の gap をもつ不定詞節のように,tough 構文の gap が wh 移動の性質をもつと認識している話者では,(1) のような wh 島の制約が存在するが,一方,A 位置(主語)と gap が無境界依存の関係にあると認識する話者では,(wh 移動による gap でないので)wh 島の制約は存在しない。よって (2),(4a) のように判断される。さらに,時制補文の主語の gap は,lexical governor も antecedent governor もないので,ECP 違反となり,(3), (4) のような不均衡を生じる。
このように,wh 移動と NP 移動の性質を,一部ずつ持ち合わせていると仮定すると,次の事実が予測可能である。
(6) a. John was tough to give criticism to ―.
b. *John was tough to give ― criticism. (Wh 移動の性質)
c. Criticism was tough to give ― to John.
d. *? Criticism was tough to give John ―.(NP 移動の性質)