本発表で対象にしているのは,以下の (1), (2), (3) の下線部のような埋めこみ疑問文のうち,とくに (2), (3) にみられる埋めこみ疑問文である。
(1) 行くかどうか今日中に決めて下さい。
(2) おいしいかどうか食べてみて(食べてごらん)。
(3) 怒ったのか出て行ってしまった。
上の3つの文で,(1) から (2), (3) と移るにつれて,疑問節と後半部との関係がうすくなり,文内文法からだんだん文間文法の様相をおびてくる。これを助詞「は」との関係から考察する。
(1) の埋めこみ疑問文には主題化・対照化の「は」や格助詞がつけられるが,(2), (3) には助詞がまったくつけられない。「は」は述語の属している S を単位として与えられるので, (2), (3) の埋めこみ疑問文は,主節の外側にあるか,あるいは内側にあって「は」のつけられる範囲にあるのに,何か他の理由で,例えば述語との関係がうすいなどの理由で,「は」による主題化・対照化をうける資格がないかである。(2) の埋めこみ疑問文は,述語主要部の「食べる」の補文ではなく,補助動詞「みる」のとる要素である。(3) の埋めこみ疑問文は,後半部の事態に対する話者のいぶかりを示すという点で (1), (2) とは追っており,意味的にも,後半部の述語というよりは,後半部全体と関係をもっている。したがって,(1), (2), (3) は,概略 (4), (5), (6) のような構造をもつと思われる。
(4) [S [NP [S 行くかどうか]S ]NP 今日中に決めて下さい]S
(5) [S [S おいしいかどうか]S 食べてみて]S
(6) [S [S 怒ったのか]S [S 出て行ってしまった]S ]S
さらに,(2), (3) のような構文に対して語用論的な考察を加え,その特徴を明らかにする。