日英語助動詞のパーティクル化

沢田 治美

英語の Aux 体系を分析する際の最も重要なポイントの一つは,Modals と Tense の関係である。周知の如く,多くの言語理論では(GB 理論であれ,GPSG であれ) Tense は文の必須要素であるとみなされている。たとえば,Chomsky (1957) は Aux を次の如く展開した。
(1) Aux → Tense (M) (have-en) (be-ing) (be-en)
本発表では,このような分析法に異をとなえ,次のような仮説を提出し,それを論証する議論を行った。
(2) 現代英語の Modals は Tense を必要としない。
(3) 日本語の「不変化助動詞」は時を示す形態素「る」,「た」を必要としない。
仮説 (2) と (3) は,日英両語において,Tense は必ずしも,文の必須要素ではない,ということを示唆している。
さて,英語の Modals が Tense を取らない,という論証は次のとおりである。
第一に,Modals は三人称,単数,現在の形態素 -(e)s をとらない (*John wills/musts go.)
第二に,need は V 用法と Aux 用法の二用法があるが,V 用法の場合は,Tense 形態素 (-s/-ed) を取り,Aux (= modal) 用法の場合は取らない (He needs/needed/*need to go. He need/*needs/needed not go.)。
第三に,ほとんどの modals はその用法の一つとして,Epistemic meanings をもつ。たとえば,次の文 (4) において,may/might は話者のその時の主観的な判断であり,命題内容部分は角がっこで示された not 以下が表示している。
(4) He may/might 〔not have come yesterday〕
ここで,may/might には Tense が存在しないと想定するならば,必然的に,Tense は,抽象的レベルでは,have によって表示されている (=past) ことになり,(4) の文の意味解釈規則と整合する。
仮説 (3) の論証は紙面の都合上割愛したい。