本発表は,Chomsky の GB 理論の枠組で,日本語文法の中心的問題である派生接辞化と文の内部構造について考察するものである。
GB 理論では,日本語のような非階層的言語の文法構造は,α 構造と β 構造とがらなると考えるが,α 構造の NP への恣意的な GF の付与と Assume-G F によって S 構造 β が定義できる。この α 構造と β 構造は,それぞれ X バー理論と拡大投射原理に従っている。後者は次の主張を内包している,「自らの predicate argument structure も θ-role 付与の特徴ももたない派生接辞は,β 構造で独立の構成素ではない」。
日本語の格理論は,格付与に関するものでぱなく,α 構造で恣意的に与えられた格助詞と,S 構造 β において構造的に決定される格を対応させるもので,矛盾が生じなければ適格と見倣される。β 構造での格は,次のように決定される。
(1) a. 〔+他動詞〕の動詞に統率されている NP は,対格
b. NP とそれを直接支配する S がともに統率されていれば,その NP は与格
c. NP とそれを直接支配する S がともに統率されていなければ,その NP は主格
θ- 基準と,S 構造 β に適用する束縛理論,格理論によって,Morphology によって自由に生成された派生述語のうち (2) のような不適格なものを排除することができ,(3) のような格助詞の分布を説明することができる。
(2) a *太郎は花子にぶちはじめられた
b *花子は子どもにケーキをたべすぎられた。
c *太郎は花子にラジオをききはじめさせた
(3) a 私は太郎に次郎をぶたせたい
b *私は太郎に次郎がぶたせたい