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「に」格の「作為性」

那須 理香

日本語の場所格の「に」と「で」はふつう "in" "on" "at" で訳されるが,これらは意味の上で重ならない部分がある。これを,ジヨン・M・アンダーソンの場所理論によって合理的に示す。
アンダーソンの場所理論は,すべての格関係が場所格を抽象化することによって表わすことができるというものであり,格を素性として捕え,さらに意味素性を加えて,格の機能を有効に説明しようとしている。日本語の場所格のために、アンダーソンの言う場所格,奪格,状態性,方向性のそれぞれの格と意味素性を用いる。
アンダーソンによる場所格とは,基本的には物がある地点に存在している位置を示す格であるが,この場所格は上記の二つの意味素性によって二つのグループに分けられる。これを日本語にすると次のようになる。
状態性の場所格には「いる」などと共起する「に」格,「勉強する」などと共起する「で」格がある。これに対して場所格が奪格と共起した場合,アンダーソンにはこれを方向性の場所格と名づける。「行く」などと共起する「に」格,「でかける」などと共起する「へ」格がそれである。ここで日本語の場所格を状態性のものと方向性のものに分けることはできたが,両方に属する「に]格の特殊性を捕えているとは言い難い。そこで,新たに作為性という意味素性を提案する。

作為格とは本来ある動作が完了したあとに,その結果として物体が残ることを示す格であるが,これを意味素性として捕え直し,「に」格の特殊性を表わす手段とする。状態性,方向性の「に」格はともに作為性があると考える。両者とも物体が継続的に(あるいは行為が終ったあと継続的に)「に」格が示す場所に存在することが含蓄されているからである。これに対し,「で」格,「へ」格にはそのような意味あいはない。日本語の場所格は,作為性を加えることによって一層体系的に分析することができる。

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