英語における副詞的従属節

安井 美代子

束縛統率理論において NP の分布は格フィルター及び格付与に対する隣接条件によって概ね説明することができる。さらにこの NP の分布に関する制約から派生的に補語としての S の分布もある程度予測することができる。しかし,S は属格をとらず,一般に P の目的語にならないことから,NP の分布に関する制約に加え,(1) を仮定する分析がある。 (cf. Stowell (1981))
(1) S は格を与えられてはならない。
主格の位置に現れるように見える S に関しても (1) に反しない Koster (1978) の分析がある。
補語ではなく副詞的な S に目を向けると,P の目的語と思われる (2b) のような例がある。
(2) a. John arrived before the last speech.
b. John arrived before the last speech ended. (Emonds (1970: 138))
格フィルターは (2a) において before が下線部の NP に格を付与することを要求するが,(2b) においても before が下線部の S に格を与えるとしたら (1) に反してしまう。この点は Emonds (1970), Stowell (1981) で見逃されている。
(2b) に基いて (1) を破棄するのは他の面で説明力を失うので望ましくない。また,副詞的従属節の主要部には P 以外に様々な範疇があり (e. g. when, if, now, in case (of)),その多くは格を付与されず (1) に反しないと考えられる。そこで (1) は保持し,(2b) については (3a) の D-構造が (3b) に再構成化され,補文標式の thatbefore から格を付与され,S 自身が格を付与されるのを妨げるという分析を提案する。この that は後に消去される。
(3) a. John arrived 〔PP before 〔S that 〔S the last speech ended〕〕〕
b. John arrived 〔PP before that 〔S the last speech ended〕〕
これは不定詞文 for と主語の NP が再構成化により表層で結びつく現象に似ている。
S の分布に関しては it との関係など様々な問題が残されているが,(1) は基本的に正しいと思われる。